お疲れ様です!
車載機器のEMC評価で必ず目にする「LISN(リッスン)」。「車両との相関を取るための箱」だとは分かっていても、いざ詳しく説明しようとすると「ANと何が違うの?」「なぜ電源ごとに分けるの?」と疑問が湧いてくるものです。
今回は、現場で迷いがちなLISNの名称の定義と、正しい接続ルールについて解説します。
この記事でわかること
✅ 「LISN」と「AN」の違いと使い分け
✅ +B・IG・ACCを別々のLISNに分ける2つの理由
✅ 高価なLISNを限られた台数で効率よく使う現場の工夫
✅ 空きポートを放置してはいけない理由(50Ω終端の鉄則)
✅ EV時代の高圧用LISNの最新トレンド
1. 「LISN」と「AN」はどう使い分ける?
結論から言うと、車載EMCの世界では「同じもの」を指していますが、規格上の正式名称は「AN」です。
ポイント
AN(Artificial Network):「擬似回路網」の略。CISPR 25などの規格書で使われる公式な用語。
LISN(Line Impedance Stabilization Network):「ライン・インピーダンス安定化回路網」の略。主にアメリカや日本の現場で広く使われている通称(ニックネーム)。
現場では「リッスン」と呼ぶのが一般的ですが、試験レポートを作成する際は、規格に合わせて「AN」と記載するのがプロの作法です。
私も新人の頃、レポートに「LISN」と書いて先輩に「規格書にはANって書いてあるよ」と指摘されました。現場用語と規格用語の使い分け、地味に大事なポイントです。
2. 1つのLISNに複数のライン(+B, IG, ACC)を入れていい?
「入力電圧が同じ12Vなら、1つのLISNにまとめて繋いでもいいのでは?」と思うかもしれません。しかし、現場では「バッテリー(+B)」「イグニッション(IG)」「アクセサリ(ACC)」は、それぞれ別のLISNに分けて接続します。
これには、明確な2つの理由があります。
① インピーダンスの精度を守るため
LISNの内部には「5μH(マイクロヘンリー)」のコイルが入っています。これは「車のワイヤーハーネスの特性」を再現するためのものです。
注意
別系統である3本の電源ラインを1つのLISNにまとめてしまうと、電気的には「並列」の状態になり、製品から見たインピーダンスが設計値である「5μH」のインダクタンス特性から大きくズレてしまいます。正確な「車両との相関」を取るためには、各系統に独立した5μHが必要です。
② ノイズの「出どころ」を特定するため
エミッション試験では、どの電源ラインからノイズが出ているかを個別に測定します。1つのLISNにまとめてしまうと、どの系統から出ているノイズなのか判別できなくなります。それぞれのラインを独立させることで、「どの系統に対策が必要か」を論理的に特定できるようになります。
【現場の知恵】複数の+Bラインはどう捌く?
実際の製品では、+B(バッテリー電源)の入力ピンが3本、4本と複数ある場合がありますよね。LISNは1台数10万円もする高価な機材。すべてのピンに1台ずつ割り当てるのは、コスト的にもスペース的にも現実的ではありません。
ポイント
給電のみのラインは「まとめる」:測定対象ではない+Bライン同士は、1つのLISNにまとめて給電しても実務上は大きな問題になりません。
測定時は「単線」にする:電圧エミッションを測定するターゲットの1本だけは、必ず独立した「専用のLISN」を通します。
「測る線だけは5μHの特性をガッチリ守り、それ以外は給電用として集約する」。このメリハリこそが、限られた設備で正しく評価するためのプロのノウハウです。
これを知らないと「+Bが4本あるのにLISNが2台しかない!」と焦ることになります。測定対象の線だけ独立させればいい、というルールを覚えておくだけで現場がグッと楽になります。
3. なぜ「GNDプレーン」の上で使うのか?
EMC試験の図を見ると、LISNは必ず金属製の机(GNDプレーン)の上に置かれ、銅箔テープや網銅線でガッチリと接地されています。
ポイント
ノイズは「行き」があれば必ず「帰り」があります。車載機器の場合、ノイズの主な帰り道は「車のボディ(GND)」です。LISNは、ノイズをGNDプレーンへ正しく逃がし、かつ測定器(スペアナ)へ導くための「基準点」として機能します。GNDプレーンがない環境では本来の性能を発揮できず、測定値は全く信頼できないものになってしまいます。
4. 【現場の罠】空いているポートは「50Ω終端」が鉄則
LISNにはプラス用とマイナス用の2つのポートがあるのが一般的です。片方を測定している時、もう片方を「何も繋がず放置」するのは厳禁です。
注意
使っていないポートを解放(オープン)にすると、LISN内部のバランスが崩れ、正確な特性を維持できなくなります。その結果、存在しないはずの「幽霊ノイズ」がグラフに現れることがあります。測定していないポートには、必ず50Ωの終端抵抗(ダミーロード)を繋ぐ癖をつけましょう。
「幽霊ノイズ」に何時間も悩まされた経験があります。原因が50Ω終端し忘れだと気づいた時の脱力感は忘れられません。チェックリストに必ず入れておくべき項目です。
現場で使える便利アイテム
外部ラボや急な試験現場で重宝するのがはんだ付け不要のバナナコネクタです。LISNの接続にそのまま使えて、とっさの場面でもケーブル作製が素早くできます。現場の必携アイテムとして1セット持っておくと安心です。

5. 最近のトレンド:高圧用(HV)LISN
EV(電気自動車)の普及により、従来の12V/24V用ではない、特殊なLISNも登場しています。
ポイント
高圧用(HV)LISN:400Vや800Vといった高電圧ライン用。EV・HEVの普及で需要が急増しています。
低インピーダンスLISN:電源ラインの急激な電圧変動を見る試験などで使用。
まとめ:LISNは「共通の土俵」を作る装置
まとめ
✅ 規格上の正式名称は「AN」。現場では「リッスン」でOK、レポートは「AN」で統一
✅ 特性を保つため、系統(+B・IG・ACC)ごとにLISNを分ける
✅ 測定対象の1本だけを独立させる「現場の工夫」で精度と効率を両立
✅ GNDプレーンへの正しい接地が測定値の信頼性を左右する
✅ 測定しないポートは必ず「50Ω終端」する
✅ EV時代の高圧用LISNも登場。車載EMCは進化し続けている
「同じ電源だから、LISNも1個でいいよね」という妥協が、後の再測定という大きな手間に繋がります。でも、すべてのピンにLISNを贅沢に使うのも現実的じゃない。だからこそ、「測る線だけは絶対に独立させる」という原理原則を忘れないようにしよう。この使い分けができるようになれば、君も立派な評価エンジニアだよ!