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ソフトウェア変更でEMCは全部やり直し?物理法則でテストを削る「テーラリング」術【中編】

物理法則を利用して無駄なEMC評価項目を削るテーラリング術を解説したアイキャッチ画像

お疲れ様です!

前回の記事では、「なぜソフトウェアが変わると、ハードウェアのノイズ(EMC)が変わるのか?」というメカニズム(PWMの変更や起動タイミングなど)について解説しました。

「なるほど、ソフトが変わればノイズが変わる理屈は分かった。……じゃあ、バグ修正のたびに数週間かかるEMCや環境試験を、また最初から全部やり直すの?」

現場の評価エンジニアなら、ここで絶望するはずです。

結論から言います。全部やり直す必要はありません。

この記事でわかること


✅ 「テーラリング」がプロの必須スキルである理由
✅ 物理法則を使って環境試験・ESD試験をバッサリ削る判断基準
✅ イミュニティ試験で例外的にやり直しが必要なケース
✅ エミッション試験を「倍音の狙い撃ち」で数日から数時間に短縮する方法

今回は、無駄な試験項目を論理的に削る「テーラリング術」について、15年現場で戦ってきた視点から実践的なテクニックを解説します。

【前回記事へのカードリンクをここに挿入】

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ソフトウェアの変更でノイズが変わる?「コードが電磁波を生む」3つのメカニズムを全職種向けに解説【前編】

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1. 「手抜き」ではない。プロの必須スキル「テーラリング」

自動車業界などの厳格な開発プロセスにおいて、試験項目を削ることは決して「手抜き」や「サボり」ではありません。変更内容のリスクに応じて評価項目を取捨選択し、最適化することを「テーラリング(Tailoring)」と呼びます。

ポイント


ISO規格やA-SPICE(車載ソフトウェアの開発品質を保証するための国際的なプロセス規格)などでも、「プロジェクトに合わせて適切にテーラリングしなさい。ただし、その項目を削った『妥当な理由』はしっかり説明できるようにすること」と公式に推奨されているプロのスキルです。

2. 最強の盾は「ソフトウェアは物理法則を変えられない」

テーラリングを行う際、評価エンジニアの最強の武器(盾)になる大原則があります。

それは、「ソフトウェアは、物理法則(膨張・収縮・電気的破壊耐力)を直接変えることはできない」という事実です。

この理詰めを使って、評価項目を以下のようにバッサリと削っていきましょう。

① 環境試験(温度サイクル・熱衝撃など):原則「全カット」

熱による基板の反り、樹脂の割れ、ハンダクラック。これらはハードウェアの材質や熱膨張係数といった「物理現象」に依存します。

ポイント


SWの変更が製品の「最大自己発熱量」を極端に押し上げるような変更(例:今まで50%だった出力を常に100%にする等)でない限り、物理的な破壊には影響しません。環境試験は原則として全カットで問題ありません。

② 静電気(ESD)・サージ試験:原則「カット」

静電気やサージといった強烈なエネルギーが「どこに逃げていくか」は、ハードウェアのGNDレイアウトや保護部品(バリスタなど)の配置という物理的な構造で決まります。ソフトが変わっても、エネルギーの逃げ道は変わりません。ESD・サージ試験は原則カットで問題ありません。

③ イミュニティ試験:「回復能力」が変わった時だけスポット実施

注意


例外として評価すべきケース:ソフトウェア側で設定している「エラーからの自己復帰(リセット)ルーチン」が変更された場合のみ。イミュニティ試験には「ノイズを受けた後に正常に復帰できるか」という合否判定基準があり、この「回復能力」に関わる変更があった時だけスポット実施します。

④ エミッション(放射・伝導)試験:「倍音」を狙い撃ち

前回の記事で解説した通り、ソフトのPWM周波数などが変わればノイズのピークは横にスライドします。しかし、やみくもに全帯域をフルスキャンする必要はありません。

ポイント


「PWMの周波数をX HzからY Hzに変更した」という情報が事前にあるなら、そのY Hzの整数倍(倍音)の周波数帯域だけをピンポイントでスポット測定します。原因となる発生源の基本波と高調波だけを狙い撃ちすることで、数日かかる暗室のテストを数時間に短縮できます。
レントン
レントン

「あれもこれも心配だから全部テストしよう」というのは、一見真面目に見えて実は思考停止です。根拠を持って「ここだけ見ればいい」と言い切れるエンジニアが、本当のプロだと思っています。

3. まとめ:「やらない理由」を論理的に説明できるエンジニアになろう

まとめ


✅ テーラリングは「手抜き」ではなくISO・A-SPICEで推奨されているプロのスキル
✅ 環境試験・ESD試験は「物理法則は変わらない」の一言で原則カット可能
✅ イミュニティ試験はリセットルーチンが変わった時だけスポット実施
✅ エミッション試験は変更されたPWM周波数の倍音だけを狙い撃ちして大幅短縮
✅ 「やらない妥当な理由」を物理的根拠で説明できることがプロの評価エンジニア

A-SPICEやテーラリングといった評価・品質管理の専門スキルをもっと深めたい方には、こちらの書籍がおすすめです。

こういった「プロセスを使いこなす」スキルは、転職市場でも高く評価されます。A-SPICEやテーラリングを使いこなせる評価エンジニアはハイクラス人材として評価されやすいので、まず自分の市場価値を確認してみるのもありです。

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次回【後編】では、「ブラックボックス化したSWアップデートから評価チームを守る3つのサバイバル術」について解説します。

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