お疲れ様です!
「ソフトウェアの変更がノイズに与えるメカニズム」と「無駄なテストを削るテーラリング術」について解説してきましたが、今回はシリーズ完結編です。
現場のリーダーとして、一番泥臭くて、一番頭を悩ませる問題に切り込みます。それは「ブラックボックス化したソフトウェア変更に、評価チームとしてどう立ち向かうか」というマネジメントと防衛術の話です。
この記事でわかること
✅ 情報が来ないSW変更が現場で当たり前になっている理由
✅ 「確認しなかったのか」と追及された時の正しい防衛線の張り方
✅ A-SPICEのプロセスを「盾」にして無駄なテストを断る方法
✅ 公式ルートに頼らない「現場の非公式ネットワーク」の作り方
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ソフトウェア変更でEMCは全部やり直し?物理法則でテストを削る「テーラリング」術【中編】
お疲れ様です! 前回の記事では、「なぜソフトウェアが変わると、ハードウェアのノイズ(EMC)が変わるのか?」というメカニズム(PWMの変更や起動タイミングなど)について解説しました。 「なるほど、ソフ ...
1. 現場のリアル:誰も「性能への影響」を気にする余裕がない
近年の製品開発、特に車載業界では、ソフトウェア開発チームは基本海外(フランスや中国など)にあり、それを日本サイドで受け取るのは国内の別拠点……という体制が当たり前になっています。
注意
海外のSWチームも開発で常に問題が発生しており、ハードウェア性能への影響(EMCなど)を検討する余裕なんて一切ない状態です。一方で評価チームも常に日程に追われています。「SW変更によるノイズへの影響を気にしないといけないと分かっていながらも、なるべく触れないようにしている」というのが、多くの現場エンジニアの痛切な本音です。
これは特定の会社の話ではなく、業界全体でよく聞く話です。悪意がある人は誰もいないのに、構造的に情報が届かない状態になってしまっている。
2. 「忙しかった」は絶対に書いてはいけない暗黙のルール
もしそのSW変更が原因で市場トラブルが起きたらどうなるでしょうか?
必ず「変更があったのに、確認したのか?なぜやらなかったのか?」という、自責の視点での厳しい追及が来ます。
本当の理由は「他部署から情報が来なかったから」「忙しすぎて工数が出せなかったから」です。しかし、会社という組織において、これを公式なレポートの理由として書くことは許されないという「暗黙の風潮」があります。
結果として、追及を恐れるあまり「念のため全部の試験をフルコースでやり直す」にシフトし、毎回真面目に取り組んで自らの工数を爆発させてしまう悪循環に陥ります。
この悪循環をいかに被害を少なく切り抜けるか。そのための「知識とハック」を3つ紹介します。
3. 被害を最小限に抑える3つの防衛策
防衛策①:A-SPICEのプロセスを「盾」にする
ポイント
SW変更の際、本来は「影響分析(Impact Analysis)」が必須です。「影響分析のインプットがない状態での闇雲なテストは、プロセス逸脱にあたるため着手できない」と、ルールの正論で突き返します。真面目に全部受けるのではなく、プロセスを使って防波堤を作ります。
防衛策②:レポートに「免責の定型文」を記載する
「忙しかったからやらなかった」と書けば怒られますが、物理的な根拠を書けば誰も文句は言えません。テストを削る際は、必ず評価レポートに以下の防衛線を張ります。
コピペOK:免責の定型文
「SWリリースノートにハードウェア動作変更(PWM周波数、クロック設定等)の記載がないため、物理的影響なしと判断し、本試験項目は対象外とする」
責任の所在を「情報不足のSW側」へ論理的に切り離すことができます。
防衛策③:他チームからの「SOSサイン」を拾う非公式ルート
これが現場で一番有効な手段です。
製品の機能テストを行っているチームと、事前に情報共有の関係を作っておきます。
ポイント
「動作音が変わった」「消費電流が増えた」「LEDのチラツキが変わった」「モーターの駆動音がいつもと違う」——これらは全部SW変更の証拠です。「音が変わった=PWM周波数が変わった証拠」です。公式ルートで情報が来ないなら、現場同士のネットワークで危険察知のアンテナを張り巡らせましょう。
この「非公式ネットワーク」は、若手の頃から意識して作っておくべきです。困った時に「ちょっと聞いていい?」と言える関係が、後で何度も自分を救ってくれます。
4. まとめ:真面目に取り組むことだけが正義ではない
まとめ
✅ 情報が来ないSW変更は業界の構造的な問題。個人の責任ではない
✅ 「忙しかった」は書けない。物理的根拠で「やらない理由」を明文化する
✅ A-SPICEの「影響分析が必須」というルールを防波堤として使う
✅ 免責の定型文をレポートに記載して責任の所在を切り離す
✅ 機能テストチームとの非公式ネットワークが最強の早期警戒システムになる
✅ 評価チームの工数を守ることが、本当に危険な市場不良を防ぐことに繋がる
「確認不足を指摘されるのが怖いから、とりあえず全部テストする」というのは、昔の僕も陥った罠です。でも、評価チームの工数には限界がある。だからこそ、「免責の書き方」や「他部署との根回し」といった現場の知恵を使って、賢く自分たちを守るスキルが必要なんだ。胸を張って「ここまではやる、これ以上はやらない」と言い切れるリーダーを目指そう!
今回のシリーズで紹介したA-SPICEやプロセス管理のスキルは、評価エンジニアとしての市場価値を大きく高めます。「こういう視点を持った評価エンジニアを求めている会社に転職したい」と思った方は、まず自分の市場価値を確認してみてください。
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