EMC試験

【EMC試験】ノイズで誤動作!でも回路変更の前に試すべき「使われる環境を再現する」という逆転の一手

「バチッ……(画面が消える)」
「あ、また落ちた……リセットかかってます」
空間から強烈な電波を浴びせる試験や、ケーブルに直接ノイズを流し込む試験。その瞬間、マイコンが悲鳴を上げて再起動を繰り返す。暗室の中に、先ほどまでの活気が嘘のような重苦しい沈黙が流れます。
「フェライトコアを追加するしかないか……でも原価が跳ね上がるぞ」
「いっそ基板のパターンを引き直すか? いや、それだと納期に絶対に間に合わない」
頭を抱える設計担当者と、青ざめるプロジェクトマネージャー。あなたも評価エンジニアとして、こんな胃の痛くなるような修羅場を何度も経験してきたのではないでしょうか?
この記事では、ハンダごてを握って回路をいじる前に、暗室という「評価環境」ならではのアプローチで、プロジェクトを絶望的なコスト増や日程遅延から救い出す「逆転の交渉データ作り」をお伝えします。

この記事でわかること


✅ NGを出すだけで終わらない、テストエンジニアの本当の価値
✅ 規格試験が陥りがちな「オーバーテスト(過剰に厳しい試験条件)」の罠
✅ アルミホイルや金属板を使った「実際の使用環境」を再現する方法
✅ 顧客へ試験条件の見直しを打診するための「データという武器」の作り方

盲点:その試験条件、本当に「現実」に即していますか?

大前提として、EMCの試験規格や顧客ごとの独自ルールは絶対です。決められたセットアップで試験を行い、誤動作すれば「NG」として正式なデータを残す。これはコンプライアンス上、絶対に曲げてはいけない基本ルールです。
しかし、ここで立ち止まって考えてみてください。
いま暗室の机の上に置かれている製品は、ケーブルがむき出しで、外装だけの「裸」の状態で強烈な電波を浴びせられています。規格とは、マージンを取るために意図的に「ワーストケース(最悪の条件)」を作り出していることが多いのです。
では、この製品が実際に使われる「現実の環境」はどうでしょうか?製品の周囲には、金属製の取り付けブラケットや、分厚い金属パネル、金属筐体などが存在することがほとんどです。実はこれらが、外部からのノイズを跳ね返す「天然の強力なシールド(防具)」として働いているケースが多々あるのです。

ポイント


もしかすると、今の「NG」は製品の回路が弱いからではなく、製品単体での試験条件が、現実の使われ方に対して過酷すぎる(オーバーテストである)だけなのではないか?

この仮説に思い至った時、評価エンジニアとしての本当の仕事が始まります。

暗室の錬金術:原因究明のための「実際の使用環境」模擬テスト

規格通りの正式な試験で「NG」という事実をしっかりデータに残したら、ここからがテストエンジニアの腕の見せ所です。思考を「合否判定」から「原因究明(トラブルシューティング)」へと切り替えます。
製品単体ではノイズに負けてリセットがかかってしまう。ならば、「実際に設置・取り付けられた状態」を暗室のテーブル上に即席で再現してみましょう。ここで使うのは、高価な測定器ではなく、ホームセンターで買えるような「アルミホイル」「銅箔テープ」、そして「適当な金属板」です。

現場での実践手順


製品の周囲に金属板を立てたり、製品の下にアルミホイルを敷いてGND(アース)と強固に繋いだりして、実際の設置環境にある金属パネルや取り付けブラケットに見立てた「ダミーのシールド空間」を作ります。この手作りの環境でもう一度、先ほど製品を沈黙させた強烈なノイズを照射してみてください。

もしこれで、マイコンがリセットされることなく正常に動き続けたなら……おめでとうございます。あなたは今、プロジェクトを救う決定的な事実を突き止めました。
「製品の回路自体がノイズに弱いわけではない。単体試験という『防具をすべて剥ぎ取られた状態』が、現実の使用環境に対して過酷すぎた(オーバーテストだった)だけだ」という事実です。

注意


アルミホイルや金属板による環境再現はあくまで「仮説を裏付けるための参考データ」です。最終的な判断は、実際の取り付けブラケットや筐体を使った正式な追加評価で確認することが前提になります。

データを「武器」に変えよ:プロマネと共闘する最強の交渉術
さて、ダミー環境で誤動作しなかったからといって、勝手にテスト環境をいじって「合格」のハンコを押すのは絶対にやってはいけないコンプライアンス違反です。
私たちがやるべきことは、この自主評価で得られたデータを、強力な「武器」としてプロジェクトマネージャー(PM)に渡すことです。

PMへの報告例


「基板にフェライトコアを追加すれば試験は通りますが、1台あたり〇円のコストアップになります。しかし、こちらのデータを見てください。実際の設置環境を模擬した状態であれば、今の回路のままでも誤動作は起きません。」

このデータを受け取ったPMは、顧客や認証機関に対して、強力な交渉カードを切ることができます。例えば自動車業界であれば、以下のような交渉が考えられます。
「実際に取り付けられる金属ブラケットを装着した状態(実使用状態)を、正式な試験セットアップとして認めてもらえないか?」
「テストプラン自体を、より現実に即した条件に見直せないか?」
もちろん、試験条件の変更には顧客や認証機関の正式な承認プロセスが必要です。しかしエンジニアの仕事は「交渉を成立させること」ではなく、「PMが交渉テーブルに着くための、根拠あるデータを作ること」です。

まとめ:評価エンジニアは「落とす」のが仕事ではない

ノイズ耐性試験で製品が落ちた時、ただ規格書と照らし合わせて「NGでした。対策してください」と設計に丸投げするのは、誰にでもできる作業です。
しかし、テストエンジニアの本当の価値はそこにありません。なぜ落ちたのかを分析し、「どうすればこの製品を世に出せるか」のデータを作り、プロジェクト全体を前に進めることこそが、私たちの真の仕事です。
次に暗室で製品の画面がフリーズした時は、焦ってハンダごてを握る前に、一度手を止めてみてください。そして、「この製品が使われる現実の環境はどうなっているか?」を想像し、手元のアルミホイルでそれを再現してみましょう。
その泥臭い一手間が、数ヶ月後のプロジェクトの運命を大きく変えるかもしれません。

レントン

お疲れ様です!回路をいじらずに環境を疑う。これって、現場で何度も悔しい思いをしてきた人間じゃないと絶対に気づけない視点ですよね。テスト環境と現実のギャップを埋めるのは、我々評価エンジニアの立派な仕事です。自信を持って、そのデータを設計やプロマネにぶつけていってください!

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