お疲れ様です!前回の記事で「PK・QP・AV」の使い分けをマスターして、少しドヤ顔になっている若手の皆さん、こんにちは。
さて、次に皆さんの前に立ちはだかるのが、画面の隅っこにいる「RBW(分解能帯域幅)」と「VBW(ビデオ帯域幅)」という謎のパラメータです。
ここでも私の黒歴史をひとつ。最初の数年間、私は「手順書に120kHzって書いてあるからヨシ!」と、意味も分からずただ数字を打ち込むだけのマシーンになっていました。
ところがある日、うっかり数値を大きく間違えて設定してしまい、画面全体のノイズがドーン!と跳ね上がって、「大変です!製品の電源を入れてないのにリミット超えてます!暗室が壊れました!」と先輩に泣きついたことがあります。(単なる私の設定ミスでした。恥ずかしい……)
皆さんが私と同じ恥をかかないように、今日も現場の泥臭い経験をこっそり共有します!
この記事でわかること
✅ RBW(分解能帯域幅)の現場での本当の意味
✅ 「RBWを下げるとノイズフロアが約10dB下がる」計算のカラクリ
✅ マージン確保のために「RBWを下げていいノイズ」と「ダメなノイズ」
✅ 車載規格特有のGPS帯域の秘密と、VBWの「3倍ルール」
読む前の基礎知識:初心者を悩ませる2つの専門用語
① ノイズフロア(暗騒音)=「画面の底を這っているベースの線」
製品の電源を入れていなくても、測定器自体や暗室が持っている「最低限のノイズ」のことです。
② ホワイトノイズ=「全体に薄く広がっている砂のようなノイズ」
テレビの砂嵐(サーッという音)のように、あらゆる周波数に均等に広がっているノイズのことです。
1. RBWは「ふるい」の目の粗さ
RBWは、川底から石や砂(ノイズ)をすくい取る「ふるいの目の粗さ」をイメージしてください。
RBW 1MHz:網の目が「とても大きい」ふるい
RBW 120kHz(や9kHz):網の目が「細かい」ふるい
暗室ですくい取るノイズには、大きく分けて以下の3種類があります。
3種類のノイズのイメージ
🟡 サラサラの細かい砂:暗騒音(ノイズフロア・ホワイトノイズ)
🔵 鋭く尖った縦長の石:狭帯域ノイズ(マイコンのクロック発振など)
🔴 横にデカい岩の塊:広帯域ノイズ(DC-DCのスイッチングノイズなど)
2. 【現場の謎】RBWを下げるとノイズフロアが下がる理由
暗室で測定中、RBWを1MHzから120kHzに下げると、スッとノイズフロアが約10dB下がるのを経験したことはありませんか?
これは魔法ではありません。「目の大きいふるい」で川底をザクッとすくうと、大量の砂(暗騒音)が網に乗ります。しかし「目の細かいふるい」に持ち替えると、すくえる砂の量が一気に減りますよね。これがノイズフロアが下がる理由です。
現場のエンジニアが体感している「なんか10dB弱下がるんだよね」という感覚は、理論上ピッタリ9.2dB下がるという事実と完全に一致しているのです!

注意
この計算が当てはまるのは、あらゆる周波数に均等に広がっている「砂(暗騒音・ホワイトノイズ)」だけです。「尖った石(狭帯域ノイズ)」や「岩の塊(広帯域ノイズ)」には当てはまらないので注意してください。
3. 【要注意】マージン確保のための「悪魔の誘惑」
規格の限度値(リミット)に対して、「あと少しでマージンが取れないから、RBWを下げてノイズを低く見せちゃえ!」という誘惑に駆られることがあります。これは、やっていい場合と、絶対にやってはいけない場合があります。
⭕️ 下げてもいい場合(クロックなどの狭帯域ノイズ)
針のように細く尖った石(狭帯域ノイズ)は、細かいふるい(120kHz)に変えてもスリットを通り抜けるので、すくい取った「石の高さ(ピーク値)」は変わりません。砂(暗騒音)だけが下に落ちてノイズがクッキリ見えるようになるため、規格上も正しいテクニックです。
❌ 絶対にダメな場合(DC-DCなどの広帯域ノイズ)
横にデカい岩の塊(広帯域ノイズ)を細かいふるい(120kHz等)ですくおうとすると、岩がふるいの枠からはみ出して削り取られてしまいます。本来のノイズエネルギーより低く測定されてしまい、市場に出た後に重大な不具合を引き起こす原因になります。
4. 車載EMC(CISPR 25)のシビアな世界
Q&A:車載規格の謎を解く
Q. GPS帯域(1.5GHz帯など)でRBW「3kHz」という異常に細かい指定があるのはなぜ?
A. 宇宙から届く信じられないほど微弱なGPS信号を、ミリ単位のノイズでも絶対に邪魔してはならないという、車載規格特有の強烈な厳しさの表れです。
Q. GPS中心周波数のところだけリミット線が「ガクンとくぼんだ形」になっているのはなぜ?
A. GPSの周波数の「ど真ん中」だけは絶対にノイズを入れてはいけないため、そこだけリミットがガクンと厳しくなり、その両脇は少しだけ緩くなります。守るべき「急所」がピンポイントだからです。
5. 【おまけの罠】RBWの相棒「VBW」は必ず3倍以上に設定しろ!
最後に、RBWの横に必ずいる「VBW(ビデオ帯域幅)」について触れておきます。
注意:VBWはスペアナ使用時の設定です
前回の記事で紹介した「偵察機(スペアナ)」で波形を確認する際に必ず意識してください。
・RBW(分解能帯域幅)=「ノイズをすくい取る、ふるい」
・VBW(ビデオ帯域幅)=「画面に波形を描く時の、アイロンがけ」
VBWの数値を小さくすると、ギザギザしたノイズの波形にアイロンがかけられ、ツルッとした見やすい線になります。しかし、ここで絶対に守らなければならないルールがあります。
VBWの鉄則
ピーク測定をする時は、VBWは必ずRBWの3倍以上(VBW ≧ 3×RBW)に設定すること!
アイロン(VBW)を強くかけすぎると、本当に尖っていたノイズの山の高さ(ピーク値)までアイロンで押し潰されてしまい、正しい最大値が測れなくなってしまいます。
ノイズのピークの高さを1ミリも潰さずに画面に描き出すためには、画面を描写するスピード(VBW)を、ふるい(RBW)よりも圧倒的に速く(広く)しておく必要があるのです。
まとめ:設定の意味を知れば、説得力のあるデータが出せる
今日のまとめ
✅ RBWは「ふるいの目の粗さ」
✅ 砂(暗騒音)はふるいを細かくすれば約9.2dB下がる(ホワイトノイズに限る)
✅ 広帯域ノイズを細かいふるいですくうのは絶対NG!
✅ ピークを潰さないために、VBW(スペアナ使用時)はRBWの3倍以上に設定する
手順書の数字の意味を理解して、自信を持って評価を行いましょう!
次回は、初心者が必ず混乱する「dB(デシベル)の本当の意味」について、中学生でも分かるように解説します!「0dBってゼロじゃないの?なんでマイナスになるの?」という疑問、スッキリ解決しますよ。お楽しみに!