お疲れ様です!
製品開発の現場で、ソフトウェア(SW)担当者からこんな言葉を聞いたことはありませんか?
「ソフトのバグ修正でパラメーターを少し変えただけなんですけど、EMC(ノイズ)試験って影響ありますか?」
この質問に対し、ハードウェア(HW)設計者や評価エンジニアが「念のためやっておきましょう」とだけ答えてしまうと、お互いにモヤモヤが残ります。「プログラムのコード(0と1のデータ)から電磁波が出るわけじゃないのに、なぜ?」と。
今回は、SWエンジニア、HW設計者、評価担当者、そして品質管理の方々全員に向けて、「ソフトウェアの変更が、なぜ物理的なノイズ(EMC)に影響を与えるのか」というメカニズムを、分かりやすく紐解いていきます。
この記事でわかること
✅ ソフトウェアがノイズに影響する3つのメカニズム
✅ PWM制御の変更がノイズの周波数をスライドさせる理由
✅ クロック設定変更で「今まで存在しなかったノイズ」が生まれる仕組み
✅ 起動タイミングの一斉化が引き起こす「瞬間的な巨大ノイズ」の正体
結論から言うと、ソフトウェア自体からノイズは出ません。しかし、ソフトウェアは「ハードウェアの電気(エネルギー)の使い道」を完全に支配しているため、結果として強力なノイズ源になるのです。
1. PWM制御の変更(周波数とデューティ比)
車載のLEDヘッドランプの明るさ調整や、モーターの回転速度を制御する際によく使われるのが「PWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)制御」です。
これは、電気を「オン・オフ」する高速なスイッチングによって、擬似的に電圧をコントロールする技術です。
SWの変更によって、このPWMの「周波数(1秒間に何回オンオフするか)」や「デューティ比(1周期の中でオンになっている時間の割合)」が書き換えられると、ノイズの世界では大事件が起きます。
ポイント
電気を高速でオン・オフすると、「基本となる周波数」だけでなく、その整数倍の周波数を持つ「高調波(こうちょうは)」と呼ばれるノイズが必ず発生します。楽器でいう「倍音」のようなものです。
SWのアップデートで周波数を少しずらすと、この「倍音ノイズ」のピーク位置も一緒に横へスライドします。今まで規格の「制限が緩い谷間」に収まっていたノイズが、「制限が厳しい帯域」に突入して突然不合格になる——これがSW変更後のEMCトラブルの典型パターンです。
また、デューティ比(ON/OFFの割合)を変えると、ノイズのピーク位置は変わりませんが、各高調波の「大きさ(振幅)」が変化します。特定のデューティ比では特定の高調波が強くなる場合があるため、こちらも注意が必要です。
「ソフトのパラメーターを少し変えただけ」という言葉が一番怖い。PWMの周波数が数十Hz変わっただけで、今まで余裕で通っていた試験が突然NGになることがあります。
2. クロック設定と動作モードの変更
マイコン(マイクロコンピューター)やICを動かすための「メトロノーム」のような役割を果たす信号を「クロック」と呼びます。
SWの変更で「処理速度を上げるために、内部のクロック設定(分周比など)を変更した」あるいは「今まで使っていなかった内部の通信機能(モジュール)をONにした」という場合も、ノイズ環境が激変します。
ポイント
ハードウェアの回路図や基板の部品が全く同じでも、ソフトウェアが新たなスイッチ(動作モード)を入れた瞬間に、基板上には「今まで存在しなかった周波数の電気信号」が流れ始めます。使っていなかった回路ブロックが目覚めることで、基板上の配線パターンに新たな電流が流れ、それがアンテナとなって電波を撒き散らし始めます。
3. 状態遷移(Sleep / Wakeのタイミング)
システムが省電力の待機状態(Sleep)から、通常動作(Wake)へと復帰する「状態遷移」。現場のEMCトラブルで非常に恐ろしいのが、このタイミングのSW変更です。
注意
複数のICやモジュールが一斉にスリープから復帰するようソフトウェアが書き換えられた場合、基板上では一瞬にして「巨大な電流のドカ食い」が発生します。この「瞬間的で急激な電流の変化(di/dt)」が最も凶悪なノイズを生み出し、隣の通信ラインの信号が化けてシステム全体がフリーズする致命的なエラーを引き起こします。
4. まとめ:コードは「物理的なエネルギー」を操っている
まとめ
✅ PWMの変更=ノイズの周波数がスライドする/高調波の大きさが変わる
✅ クロック・機能のON=新たな周波数のノイズが生まれる
✅ 起動タイミングの一斉化=瞬間的に巨大なノイズ電圧を発生させる
✅ 「ソフトとハードは別物」ではなく「ソフトウェアの挙動そのものがEMCの発生源」
「ソフトが変わってもHWはいじってないから大丈夫でしょ」という思い込みは、昔の僕も含めて多くの人が通る道です(笑)。でも、このメカニズムを知っているだけで、SWチームとHWチームの会話の質が劇的に変わります。「ここをこう動かすとノイズヤバそうだから、起動タイミングを少しズラそうか?」なんていう連携ができたら、最強の開発チームになれますよ!
このシリーズの内容をさらに深く学びたい方には、EMC設計の基礎から実践まで体系的にまとめた書籍がおすすめです。

次回【中編】では、「物理法則を盾にして、無駄な評価項目を論理的に削る実践テクニック(テーラリング術)」を解説します。