ノイズ(EMC)試験 初心者向けにBCI試験について解説していきます。
そもそも電磁波ノイズって?
ノイズといっても私たちの身近にはいろいろなノイズが存在しています。
テレビやラジオのザーという砂嵐音
イヤホンを付けている時の外からの生活音
車に乗っているときの振動、揺れ
いわゆる不快なものをノイズ(雑音)と言います。
上記で例を挙げたものはすべて人が体感でき、人から見たノイズです。
ここで扱うノイズとは電磁波ノイズと呼ばれ、電気と磁力で出来たノイズとなります。
電気と磁力で出来たノイズなので体感、目で見ることは出来ません。
だから電磁波ノイズ評価と言われても目的、評価内容がすぐに理解出来ないのが当たり前なのです。
電磁波ノイズが影響するのは人ではなく電子機器や機械です。
とくに最近の電子部品は通信や半導体(LED/トランジスタ/ICなど)を扱い小さな電流値で繊細な制御をしています。
その為、人の目に見えない電磁波ノイズですが、電子機器には動作が変わってしまったり、故障を引き起こす可能性を持っています。
つまり、電磁波ノイズは機械や電子機器から見た不快なノイズになります。
EMC試験とは?
EMC(イーエムシー)とは電子部品が電磁波ノイズの影響を受けない、又は電磁波ノイズを出さない電子部品を設計、製造しましょう。
という意味の言葉です。
Electromagnetic Compatibilityの頭文字で、
日本語では電磁両立性、電磁環境適合性と訳されます。
さらに電磁波ノイズに対しての「耐性があるか」、「放出しないか」で言葉が細分化されます。
ノイズに対する耐性・・・イミュニティ(immyunity) = 免疫性
別名:EMS(Electromagnetic Susceptibility) = 電磁波感受性
ノイズの放出・・・エミッション(Emission)=排出量
別名:EMI(Electromagnetic Interference) =電磁波妨害
今回解説するBCI試験は伝導イミュニティに分類されます。
本題!BCI試験とは?
BCI試験はBulk Current Injection 試験の略。
呼び方はそのままビー シー アイ しけんと呼びます。
他の機器や、ラジオなどの電波・電磁はノイズがケーブル(電線)を伝えわって、電子機器へ加わった際に誤動作、破損しないかを確認する試験です。
国際規格 『ISO11452』に評価方法が記載されており、自動車業界ではすべてのメーカーが必須としている非常にポピュラーな評価の一つです。
BCI試験方法は『ISO11452-4』に詳しく記載されています。
ノイズを受けるとどうなるの?
ノイズへの耐性が低い場合、BCI試験などイミュニティ試験を行うと電子機器は誤作動を起こします。
誤作動は製品によって異なります。
- スピーカー・・・音楽やラジオなどへ「ザー」という雑音。プツプツと音の途切れ。
- モニター・カーナビ・・・画面に線が入る。画面が消える。ナビの設定がリセットされる。
- LEDライト・・・明かりの増減光。消灯。消えているとき薄っすら光る。
- 通信・信号・・・通信の停止による様々な機器の動作不良。センサーなどから誤信号を検出。
- 時計・・・時計の停止。時刻のリセット。
電子部品はICやLED、トランジスタなどの半導体で細かな制御をしている為、ノイズにより微小な電流が回路に加わることでこれらの誤作動を引き起こします。
試験方法
ISO11452-4に従って説明をします
BCI試験はBCIプローブと呼ばれる入力機器で電子機器のケーブルに電流ノイズを注入をします。
試験周波数は1MHz~400MHzが基本で、自動車メーカーによっては100kHz ~ 500 , 2000MHzまでそれぞれ必要と考えられる周波数までカスタマイズされています。
試験方式は「置換法」、「閉ループ法」の2通りあり、どちらかを選択して評価します。
ヒロセ電機株式会社HPより
https://www.hirose.com/product/jp/pr/technology/emc_testing/
置換法と閉ループ法とどちらを選択したら良いの?
置換法と閉ループ法と2種類あるとどちらを選択すれば良いか迷ってしまいます。
出来れば厳しい方という人もいるかもしれませんが、どちらが厳しいかは一概に言えません。
自動車メーカーの要求スペックには各メーカー指定があります。
メーカーが定まっている場合は指定に従って選択してください。
定まっていない場合は個人的には置換法を推奨します。
国内メーカーは置換法を指定しているメーカーが多いためです。
それぞれの特徴を説明します。
インピーダンスとは
交流(AC)を用いる場合の抵抗値成分の総称です。
交流の場合は抵抗の他に、コイル、コンデンサなども電流の流れやすさに影響します。
直流(DC)の場合は抵抗のみで良いのでシンプルで良いのですが、交流の場合はコイルなどで移相のズレが生じてしまいます。
ノイズも交流波形なので抵抗成分をインピーダンスと言います。
試験に必要な環境
試験は電波暗室 又は シールドルームで行います
試験中のノイズが外に漏れないようにする必要があるからです。
漏れてしまうと周りの機器が誤作動する可能性もありますし、なにより異常電波となってしまうので法律的にNGです。
EMC試験で扱うレベルのノイズとなると人体にも影響を与える可能性があります。
直接ノイズを浴びてしまうと頭痛やめまい、だるさなどの不調が出ることもありますし、その他にもガンや妊娠などに影響が出るとも言われています。
BCI試験の場合はBCIプローブから直接電子機器のケーブルに注入する為、試験室内のノイズの反射リスクは少ないので「シールドルーム」でもOKです。
試験装置は専用の機器が複数必要になります。
すべてを集めると1000万円以上と高額な費用が必要になります。
BCI試験 試験装置図
テクノサイエンスジャパンHPから抜粋
https://tsjcorp.co.jp/emc-testing/bci-test/
設備が無い場合は外部評価機関を利用しよう
評価を行うためには非常に高額な設備が必要になりますが、数千万円の設備を簡単に購入することは出来ません。
でも安心してください。
どの企業も同じで、大きな企業でさえ自社の設備のみでは賄えないので国内には複数の外部評価機関が存在しています。
そんな時は『EMC 試験所 ○○(県名)』などで検索すれば必ずヒットします。
もしくは【CEND】というEMC専門のサイトで調査してみてください。
下記のように細かく業種ごとに対応出来るサイトが検索できるので非常に便利です。
CEND HPから抜粋
https://cend.jp/search_testsite/index.php
BCI試験の対策例を紹介
ハーネスへフェライトコアを付ける
メリット:電子基板へ直接対策では無いため、設計変更やパターンの作り直しが不要で後付け可能
デメリット:部品の値段が高い(数百円のアップ)。重量が重くなるため車など振動する機器に取り付ける場合はハーネスや電子部品のコネ クタに負荷がかかりやすくなる。固定できる構造の検討が必要。(固定部品もフェライトコアメーカから準備されています。)
コンデンサを追加(バイパスコンデンサ(=パスコン)
メリット:電子基板自体への対策になるため、根本的にノイズ耐性がアップ。数円の追加費用で対策出来る。一番信用できる対策。
デメリット:回路の見直しが必要。コンデンサを追加配置する場所の検討が必要な為、回路知識が必要
GNDの強化(ハーネス線径を太く。パターンのGNDを多く取る)
メリット:ハーネスのみの場合は回路の変更が無くても良い。パターン変更をする場合も部品追加が無いので費用は変わらない。
デメリット:線径を太くする分値段が数十円アップ。期待できる効果は少し低め。
全体的なパターンの見直し
メリット:パターンの隅が直角やとがっている場合は丸める。ネジ穴や取り付け上、基板に穴が開いてしまう場合はGNDパターンを接触させる。
パターンがアンテナとなり、ノイズ影響が受けやすい状態になっているため、見直すだけでも若干効果あり
デメリット:回路変更と知識が必要。期待できる効果は低め。
シールド材で囲う
メリット:輻射ノイズ全体に対しては効果あり。
デメリット:BCI試験のような伝導ノイズはハーネスを伝って基板へ侵入する為、効果は低い。