「……絶縁支持体って何だ?」
EMC評価の規格書を読んでいると、必ずこんな記述が出てきます。
「試験品は、比誘電率εr = 1.4以下の絶縁支持体の上に置くこと」
「……絶縁支持体って何?」「εrって何の数字?」「手元にある発泡スチロールじゃダメなの?」
今回は、この疑問を現場目線でまとめて解決します。結論を先に言うと、
結論
絶縁支持体=発泡スチロールでほぼ正解。ただし種類に注意!
その理由を順番に解説していきます。
この記事でわかること
✅ なぜEMC試験で製品を「浮かせる」必要があるのか
✅ 比誘電率εrを難しい言葉なしで理解する方法
✅ XPS(スタイロフォーム)とEPS(白い発泡スチロール)の決定的な違い
✅ 現場で絶対にやってはいけないNG素材一覧
1. そもそも、なぜ「浮かせる」必要があるのか?
EMC評価の目的は「製品が実際に使われる環境で、ノイズを出さない・ノイズに強い」ことを確認することです。
しかし、実際の搭載環境(車のどこに取り付けられるか、周囲に何があるか)を試験室で完璧に再現するのはほぼ不可能です。
そこで規格は「余計なものを全部排除した、できる限りニュートラルな状態で測ろう」という考え方を取っています。
注意
製品をそのまま金属製の試験台の上に置くと、台の金属がノイズの「帰り道」になったり、電波を反射・吸収したりして、測定値が現実とかけ離れてしまいます。
「じゃあ、何も影響しない素材の上に置けばいい」→ それが絶縁支持体です。
絶縁支持体の役割は一言で言えば、「製品を空中に浮かせた状態を地上で再現すること」です。
2. 「比誘電率εr」とは何か?(難しい言葉を一行で翻訳)
規格に書いてある「比誘電率εr = 1.4以下」という数字。これは何を意味しているのでしょうか?
ポイント
εr(比誘電率)=「空気と比べて、どれだけ電磁波に干渉しやすいか」の数値
空気のεrは「1.0」です。これが基準(スタート地点)です。数値が1.0に近いほど、空気と同じ=電磁波にほぼ影響を与えない素材ということになります。
つまり「εr = 1.4以下」という規格の要求は、「空気とほぼ同じくらい、電磁波に影響を与えない素材を使え」という意味です。
参考:身近な素材の比誘電率
・空気:εr ≒ 1.0(基準)
・押出法発泡ポリスチレン(XPS):εr ≒ 1.1 ✅(規格OK)
・ビーズ法発泡スチロール(EPS):εr ≒ 2.6 ❌(規格NG)
・木材:εr ≒ 2〜5(NGの可能性あり)
・ガラス:εr ≒ 4〜7(完全にNG)
・水:εr ≒ 80(論外)
3. 「発泡スチロール」なら何でもいいわけじゃない!XPSとEPSの違い
ここが一番の落とし穴です。「発泡スチロール」と一口に言っても、製法によって2種類あります。
① ビーズ法発泡スチロール(EPS):εr ≒ 2.6 → 規格NG ❌
割ったときにポロポロと丸いビーズが出てくる、あの白い発泡スチロールです。引越しの緩衝材や保冷ボックスに使われているものがこれです。製造時に熱や薬品を使うため、誘電率がXPSより高くなってしまいます。EMC試験には使えません。
② 押出法発泡ポリスチレン(XPS):εr ≒ 1.1 → 規格OK ✅
住宅の断熱材や吸音材として使われている、より密度の高い発泡スチロールです。押し出し機で成型するため気泡が均一で、誘電率が非常に低くなります。EMC試験に使えます。
XPSは一般的に「スタイロフォーム(ダウ化工)」や「ミラフォーム(JSP)」という商品名で売られています。ホームセンターの断熱材コーナーで購入できます。
暗室のストックが切れた時や、外部の試験機関で急に必要になった場合はAmazonでも購入できます。
これ、実は私自身がやらかした話です(笑)。新人の頃、暗室に絶縁支持体がなくて、倉庫にあった白い発泡スチロール(EPS)をとりあえず使ってしまいました。後から先輩に「発泡スチロールなら何でもいいわけじゃない」と指摘されて初めてXPSとEPSの違いを知りました。当時は「発泡スチロールなら何でも同じでしょ」と本気で思っていたんです。

4. 現場での実践:何cm浮かせればいいのか?
規格(CISPR 25など)では、試験品をGNDプレーン(金属製の試験台)から「50mm(5cm)以上」離すよう指定されています。
ポイント
① 厚さは50mm以上のXPSを用意する
ホームセンターで売っているスタイロフォームは20mm・30mm・50mm・100mmなどの規格品があります。50mm厚を1枚か、25mm厚を2枚重ねて使うのが一般的です。
② カッターで簡単に加工できる
XPSはカッターで切断できるため、製品の形状に合わせて溝を掘ったり、スタンドを自作したりすることができます。
③ 使い回しに注意
長期間使用したXPSは端が欠けたり汚れが付いたりします。油や薬品が付着したものは誘電率が変わる可能性があるため使用しないようにしましょう。
カッターで切りやすい専用品もAmazonで入手できます。↓これはまっすぐ切れるからオススメです!

5. 【現場の落とし穴】木の台・段ボール・普通の発泡スチロールは全部NG
暗室で急いでいる時、手元にあるものをとりあえず使ってしまいがちです。しかし以下のものは誘電率の観点からNGです。
注意:使ってはいけない素材一覧
・木製の台:εrが2〜5程度。湿気を吸うとさらに上がります。
・段ボール:木材と同様にεrが高く、湿気の影響を受けやすいです。
・EPSの発泡スチロール(引越し梱包材):εr ≒ 2.6で規格NG。
・布や紙:εrが高く、湿気の影響を強く受けます。
「手元にXPSがない!」という場合は、試験を開始する前に必ず入手するか、試験機関に相談しましょう。間違った絶縁支持体を使った測定は、再測定のリスクがあります。
まとめ
まとめ
✅ 絶縁支持体の役割は「製品を空中に浮かせた状態を再現すること」
✅ 比誘電率εrは「空気と比べた電磁波への干渉しやすさ」の数値。1.4以下が規格要件
✅ 使うべきはXPS(押出法発泡ポリスチレン)。商品名はスタイロフォームやミラフォーム
✅ 白い緩衝材の発泡スチロール(EPS)は規格NGなので使わない
✅ 試験台からの高さは50mm以上確保する
✅ 木の台・段ボール・布・紙も全てNG
スタイロフォームは安くてホームセンターで買えるので、常にストックしておくことをおすすめします!この失敗があったからこそ、今日の記事が書けました(笑)。
